注意書き


  • 9月12日のMQ記念日作品にして、Webアンソロ参加作品です。
  • 割り当てでいただいたお題は「奴隷以上恋人未満」。
  • MQつーより、MQMな感じな仕上がりでございます・・・orz
    これら、おkな方のみ下に始まる駄文を楽しんで(?)ください<(_ _)>

























 最初に魅入られたのはメタル。

クイックのその性能に、強さに、存在感に。

メタルの理想そのものだと思った。ワイリーのもてる戦いや早さについてのすべての技術と理論、そしてそれに似合う高い機動力と攻撃力。
自分が持つことが出来なかったその能力を体現したロボ、それがクイックだった。
自身の存在理由のひとつを完遂できたという心地よさもあったからかもしれないが、クイックが初めて起動したのを見たその瞬間から、もうメタルの中にクイックは消えることのない光として、時に激しく、時に柔らかくメタルのココロという回路を走り続けている。



「なあ、コーティングワックスの予備しらねぇ?」
メタルの自室でごそごそと荷物作りをしていたクイックが、ワイリーの書き散らかした研究メモを整理していたメタルに声をかけた。
「備品の予備なら、フラッシュに聞け。ていうか、お前はまだ荷造りを終えてなかったのか?明日の朝には、またレースに出発だろ。」
「だから、今荷造りしてんじゃあねえか。チッ。」
メタルにチクリと嫌味を言われたクイックは、舌打ちすると荷物の中身をまた部屋中に散らかしまくっていた。
メタルから見たら、その散らかし具合は生みの親のワイリーそっくりだった。
「・・・そんなところまで似なくていいのに。まったく。」
両手いっぱいのワイリーのメモをまとめると、メタルはチラリとクイックを見た。
(・・・・こんなに子供っぽい面を持っていたとは・・・。戦闘ロボとして特化しすぎたか。あまりに純粋で逆に心配だ。)
メタルは、クイックのその高い集中力と生粋の戦闘センスを尊敬していたが、その反面、それ以外なところで子供のような純粋さと、まわりを返り見ない勝手さに悩まされてもいた。
(まるで親子といったところか・・・。)
似たもの同士なワイリーとクイックを、メタルは嫌味をいいながらも身の回りの世話を続けていた。

とうとうガサリと荷物を一まとめにして、クイックが無理やり輸送用ボックスに入れ始めた。
「・・・何をやってるんだ?」
メタルが見かねて声をかけると、クイックはくるりと振り向いた。
「だから、荷物を作ってんだろ。」
「ゴミを捨ててるのかと思った。もっとちゃんと荷を作らないと運搬時に荷物が痛むぞ。」
「大丈夫だろ?」
クイックのいいように、メタルは思わず頭が痛くなった。

「だいたい、俺の部屋でなんで荷造りをしていたんだ?自分の部屋ですればいいだろ。」
結局、クイックの荷造りをし直し始めたメタルがクイックに聞くと、クイックは少し首をかしげながらメタルの顔を覗き込んだ。
「だって、俺がもたついてたら、いつもメタルが上手にしてくれるだろ?だから、こういうメンドクサイことはメタルの側でやったらいいかなって。」
そう言い放つクイックの悪気は一切ない笑顔に、メタルは何も言えなくなった。

(甘やかし過ぎたか・・・。これでは博士以上に手がかかる。)

メタルはクイックの前向きな姿勢と生き方を応援したいと思っている。
だから、こうやってクイックの世話を焼くのは好きでしているのはたしかだった。
前しか見ていないクイックの後をいつも黙って支えて守ることが、メタルなりのクイックへの愛情の表現のつもりだった。
また、あえてそんなメタルを信じて一切振り向かないクイックに、メタルはこの気持ちが届いていることを知っている。

が、今こうしてクイックの荷をまとめていると、まるでクイックの世話係にでもなった気分だった。

メタルが荷をまとめているのを嬉しそうに見つめているクイックに視線を流すと、ため息が出てしまった。
「な、なんだよ。」
露骨に落胆した様子を見せられてクイックは、ムッとした。
「荷造りぐらい出来なくたって、ちゃんと今度のレースで一番にフラッグ切ってきてやるさ!」
クイックの言葉にメタルは自分の気持ちが本当に届いているという自信がなくなっていった。
「そうか。とにかく事故を起さず、自分の気がすむまで、好きに走ってきたらいい。」
そういうとメタルは、またワイリーのメモの整理に戻ろうといた。

とたん、クイックはメタルの腕を掴んだ。
「何だ、クイック?」
メタルが少し驚いて声をかけるとクイックは先ほどのまるでいたずらっ子のような顔を消して、ギラリと瞳孔を広げ、食い入るようにメタルを見つめてきた。
「なあ、本当に俺は勝つぜ。気がすむまで?当たり前だ、俺はそのためにいる。だから何があろうと、ぶっちぎりで勝つ。メタルのその目をずっと俺に向けさせてやるよ。だから俺のスピードについてこいよ。」
挑発的で好戦的な笑みを向け、クイックはメタルのマスクを外しその唇を奪った。
「勝利の女神ってわけにはいかないが、いただいていく。」
ペロリと上唇を舐めながら、照れた顔でそういうクイックを見つめて、メタルはそっと右手をクイックの顎に添えてきた。
「ちょ!ちょっとタンマ!!!俺、明日レース本番だから!これ以上ここで興奮できねぇ!無理!」
顔を真っ赤にしてクイックがメタルの口を押さえ、押し止めた。
「わりい。マジであんたに付き合うとボロボロになる。・・・俺も歯止め効かないから。」
メタルから力が抜け、その眼差しが柔らかくなったのを見てクイックはそっと手を下ろした。
「それは残念だ。では、勝ち続けるお前のその姿を俺は見届けよう。回路が焼ききれるような興奮を待っている。」
その言葉と共にメタルはクイックの頭を撫でてやると、クイックはまるで猫のように目を細め、その手に頭を預けた。
「ああ・・。俺は負けねぇ。見ててくれ。」
目を瞑り、不敵な笑みを浮かべクイックにメタルは魅入られていた。

もうレースのことで頭はいっぱいなのだろうか、クイックの腕がゆっくりと何かを握るように、指に力を入れていっている。
その様子をみて、苦笑しながらもメタルは羨ましくもあった。

その身を己の求める世界に投じ、悔しさも興奮もすべてを素直に感じ、表す。

(こうして俺はお前にココロを奪われ、お前の側から離れられないんだろうな。)

その窮屈さに、メタルはうっとりとしていた。




      奴隷以上 恋人未満




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